アカデミー賞作品賞の受賞が報道されたあとの最初の水曜。今までになく大きなスクリーンの部屋が、9時20分開始の回なのにほぼ満席だった。レディースデイに関係のない、男子学生の集団がけっこういた。普段見る映画ではめったにお目にかからない人々だ。
ブラックコメディーというジャンルに分類されるとは知らず、流血の多さにけっこう驚いた。格差社会を風刺しているらしいという情報ぐらいしか持たずに見たが、風刺という点では大成功をおさめていると言えよう。
韓国語の原題が「パラサイト」という外来語ではなく『寄生虫』となっていたのもよかった。日本語でも「パラサイト」ではなく『寄生虫』にすべきだったのではないかと思うが、タイトルが生々しすぎると観客動員数に影響があるのだろう。一見小ぎれいな映画に見せておくのも一つの手かとも思う。 カンヌやオスカーなど有名な賞をとっておらず、 『寄生虫』というタイトルだったら、きっと私は見に行っていないだろう。
半地下の住居も豪邸もセットだと聞き、美術のすごさには感心したが、少々がっかりもした。ロケ地があるのなら、観光に行きたかった。セットをどこかに残して映画村みたいにしてくれるとうれしい。
半地下の家が水害に遭い、体育館に避難しているところへ誕生日パーティーのご招待の電話がかかるところがものすごく皮肉だ。楽器や声楽の腕前をご披露するご友人方、明るい日差しの中、芝生を走り回る子どもたちといった高級住宅地の風景の中にいると、家財道具が水浸しになり命からがら着の身着のまま逃げてきて、体育館で雑魚寝している人たちは想像できないだろう。見ているこちらまで殺意がこみあげる。
半地下に住む家族のお父さん役をしていたソンガンホという人、いかにも韓国のお父さんという感じだなぁと思ってみていたら、『シュリ』や『JSA』など今まで何度もこの人の出ている映画を見ていたということがわかった。私の韓国人男性のイメージは知らず知らずのうちにソンガンホでできあがってしまったようだ。
だが、このソンガンホ、半地下の家に暮らしている姿がやたら似合うのに、ネット検索して出てくる写真はスーツを着ていたり、蝶ネクタイをしていたりしてびっくり。韓国を代表する大御所俳優らしい。うーん、イメージがちがいすぎる。この役の話が来たとき、お金持ちの方の主人の役を演じると思っていたから、貧しい家庭の方の父役だと聞いてびっくりしたらしい。
この映画の鍵となる「におい」…映画には全く映らないのだが、視覚やセリフからにおいを想像させるのがすごい。体臭というより服に染み付いた半地下の部屋に充満するカビのにおいがする。2006年独仏西合作映画『パフューム ある人殺しの物語』を思い出した。こちらは一人一人の微妙な体臭が描かれる。パトリック・ジュースキントの小説からしてぷんぷんとにおいが満ちていたものだ。あまり意識にのぼらないが、強烈な記憶はにおいと結びついていることが多い。
さて、ポンジュノ監督の作品を今まで全く見ていなかったことは残念至極。20年くらい韓国映画とはご無沙汰していたのがたたっている。
それにしても、韓国映画は苗字のバラエティーが乏しい韓国(李朴金崔鄭で50%以上を占める)で、 ポンジュノ監督の苗字は、いったいどんな漢字なのかと調べてみたら、「奉俊昊」と書くらしい。しかし、名前の漢字を調べて出てくるのはこの世代くらいまでか。若い俳優は調べても出てこない。
Duolingoの韓国語をやっていていつも思うのは、漢字を表記してくれたらもっと覚えやすいのに…。