1a あいつは友だちを依頼してばかりいる
中国語を母語とする日本語学習者が上のような文を書いたとする。
1b あいつは友だちに依頼してばかりいる
日本語教師はこの文の「を」を「に」に直したくなる。だが、これは助詞のまちがいだけではなく、動詞の意味もちがうとしたらどうだろう。実際は次のような意味を伝えているのだと思われる。
1c あいつは友だちに頼ってばかりいる
中国語の動詞《依頼yīlài》は日本語で言うと「頼る」の意味だ。
日本語の動詞「依頼する」は「頼む」の意味で、中国語では《委託wěituō》と言った方がよい。
このことに気づいてから、中国語母語の学習者の書く「依頼」を使った文をみると、ことごとくと言ってよいほど「頼る・依存する」の意味で使っていることがわかった。かなり危険な語である。
90年代に『依頼人』という映画があったが、このタイトルも中国語の感覚で読むと「人に頼る」という意味にしか読めず、なんのこっちゃである。
『SHERLOCK シーズン4 第1話 六つのサッチャー』を見ていたら、「事件・案件」を意味する「case」がすべて「依頼」(例:もっとおもしろい依頼はないのか)と訳されていて興味深かった。日本語の「依頼」は名詞でも多く使用される。
しかし、日本語の「依頼」に中国語のような意味がないかというとそういうわけでもない。「依頼心が強い」だと、「他人を当てにすること」の意味になる。『goo辞書』より
「依頼する」は「保険会社に調査を依頼する」二格ヲ格の両方をとるが、「頼る」は「人に頼る」「人を頼る」の両方が言え、二格をとったりヲ格をとったりする。
この違いについて「~を頼りにする」も含めて整理してあったページがあった。『違いのわかる日本語――日本語教師の日本語メモ』を元にまとめると以下のようになる。
A サプリメントに頼る (=依存)
B 主治医だけを頼りにする (=信頼)
C つてを頼るしかない (=コネ利用)
最後の「コネ利用」は『goo辞書』では「たのみとする」と書かれている。「頼る」の使い方だけでもかなり複雑なのに、「頼む」もあれば「依頼する」「依存する」もあり、この使い分けを学習者にうまく伝えるのは相当難しいと言わざるをえない。