ここしばらく毎年春休みには英語学習をしていたのだが、今年は休むことにした。だが、少しは英語を耳に入れておいたほうがよいかと思い、アメリカのテレビドラマ『ゴシップガールGossip Girl』をDVDで見返している。
その中に出てくる超大金持ちの一人息子チャック・バスChuck Bassにはジャック・バスJack Bassという叔父がいて、会社の経営権や遺産を奪い合う。
日本語だとこのチャックとジャックが有声/無声が異なるだけのミニマル・ペアMinimal pair(最小対立)だということに、今頃になってやっと気づいた。英語だと母音が違うが、音の類似性を狙ってつけられている名前なのだろう。
日本語には以下のような有声/無声の対立があり、仮名では濁点(いわゆる点々)をつけることで区別する。
カ/ガ行 k/g かき(柿)/かぎ(鍵)
サ/ザ行 s/z さる(猿)/ざる(笊)
タ/ダ行 t/d まと(的)/まど(窓)
パ/バ行 p/b パス(pass)/バス(bus)
だが、チャックとジャックは現代の表記法では濁点をつけるだけの対立ではないため、日本語母語話者の感覚としては見落としがちである。音韻処理の際、文字に頼っているつもりはないが、やはり文字の影響はありそうだ。
有声/無声の対立が苦手な中国や韓国からの日本語学習者と話すときには、この有声/無声を間違えているかもしれないとファジーに聞く必要がある。
1990年代の話で恐縮だが、台湾の学生が「日本でもチェイリーグ始まった」と言ったのを、何度か言い直してもらったが全く理解できず、ずいぶんしてから「Jリーグのことだ」と気づいた。
その後、ジャジュジョ/チャチュチョ対立のミニマル・ペアを含む文を作成して、中級クラスなどでディクテーションを始めた。当時の資料は散逸してしまったので、似たような文をもう一度作ってみた。例えば、こんな文である。
・病気で自転車による日本縦断旅行を中断せざるを得なくなった。
(じゅうだん/ちゅうだん)
・過剰な要求をする課長に部下たちは困り果てている。
(かじょう/かちょう)
ただ、最近はディクテーションはほとんどしない。私たちですら手書きすることがほとんどなくなっているのに、書かせる必要があるだろうかというのである。正しく漢字変換するための「漢字認識」がきちんとできればよいのである。
先日、あるワークショップに参加した折も、漢字を書く練習は授業時間内には設けず、やりたい人だけがオプションで練習すればよいという意見が主流だった。
一方で、語頭の音の正確さが非常に重要になってきているとの指摘にも「なるほど」と思わされた。
予測変換の技術は日に日に進歩しているため、途中まで打てばあとは少々記憶がおぼろげでも、候補の中から選択できる。だが、語頭の文字が間違っていると言いたい語にたどり着けなくなってしまう。
私にも身に覚えがある。英語のつづり字がうろ覚えの語を電子辞書で引くときを思い出した。l/rを間違えていたり、語頭の黙字(例:knifeのk)を忘れていたり…。
ことばを覚えるときは、最初が肝心!ということである。