衝撃的な中国の簡体字《冲击》

中国の簡体字《冲击》は日本語でもよく使われる熟語です。さて、日本の漢字で表すとどうなるでしょうか。

まるで沖に浮かんでいる空き缶のようなこの漢字、普通話(北京語)ではchōngjīと読み、台湾や香港の繁体字だと《衝擊》となる。

日本語の「衝撃」は名詞だが、中国語の《衝擊/冲击》は動詞でもあり「突撃する」というような意味だ。

では、日本語の「衝撃」は中国語でどう言うかというと、「衝撃を受ける」だと《受打击》、「衝撃的な内容」だと、《令人震惊的内容》などとなる。《冲击性》《冲击力》というような言い方もできるのがおもしろい。「衝撃波」や「衝撃を吸収する」だと《冲击波》《吸収冲击》とほぼ同じように使える。

中国の簡体字の中には「飛行機」が《飞机》、「親愛」が《亲爱》となるなど、印象が大きく変わるものからなんとなくわかるものまであるが、「衝撃」ほどわけのわからなくなるものは少ないと思う。

「葉」という漢字が中国の簡体字だと「叶」になるという話を2018年2月22日に書いた。中国からの留学生で「葉」という姓の人が「叶」と書き続けるとなぜ「叶」が「ヨウ」と読まれるのかわからなくなることを憂いた。

おそらくこの簡体字の問題は、簡略化した先に全く同じ形の別の字があったり、よく似た字があることなのである。

機→机 「机(つくえ)」と同じになる。
穀→谷 「谷(たに)」と同じになる。(参考:中原恵一, 2015

衝→冲「沖(おき)」と紛らわしい。実際に「沖」と「冲」は異体字。
擊→击「缶(かん)」と紛らわしい。これは他人の空似で全く別字。

日本の簡略化にも問題がなかったわけではない。

藝→芸 「芸(うん)」(草を刈るという意味)と同じになる。

ときどき名前にこの「芸(うん)」が入っている中国人がいる。ゲイと読むのかウンと読むのか尋ねないといけないのだが、日本ではゲイと読まれてしまうことも多いと思う。

簡体字は「幹・乾・干」をすべて「干」としたり、「發・髪」のどちらも「发」としたりもしているので、そんなこと気にしていたらきりがないと考えているのかもしれない。(参考:中原恵一, 2015

日本語だって「輿論(よろん)」を読み方が同じだからと言って「世論」と簡略化した結果「よろん/せろん」という両方の読み方が混在することになってしまった。最近は元の字を知らない人の方が多く「せろん」という人が増えている。

IT技術の革新で最近は漢字を手書きすることが減り、ルビも比較的簡単に入れられるようになったので、平仮名との混ぜ書き(例:「拿捕」を「だ捕」「毀損」を「き損」と書くこと)も減ってきている。

では、繁体字(正字)への回帰が進めばいいかというと…

「學(学)」「寫(写)」「臺(台)」「灣(湾)」などは別にそこまで複雑な文字を書かなくてもいいのでは? と思う。ただ単に慣れの問題な気もする。

“衝撃的な中国の簡体字《冲击》” への2件の返信

  1. 繁体字の「撃」は「撃」ではなく、旧字体の「擊」です。

    新字体:撃(車+殳+手)
    旧字体/繁体字:擊(車+凵+殳+手)

    1. 貴重なご指摘、ありがとうございます。不勉強でした。確かに繁体字「擊」は日本の新字体「撃」とは異なりますね。繁体字の部分は訂正しました。ご確認いただければ幸いです。

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