「【場所】に」と「【場所】へ」

新米日本語教師がはじめて初級を教えたときの苦労話第2弾である。

『新日本語の基礎Ⅰ』1990年刊 スリーエーネットワーク

第5課 例文1 あした どこへ 行きますか。
…京都へ 行きます。

ここに出てくる助詞「~へ」をすぐに「~に」と言ってしまうのである。日本語母語話者が「あした どこ 行きますか」と言わないかというと、実際言うし、どちらでもいいのである。

基本的な「~へ」と「~に」の使い分けは以下のようなものである。

「~へ」は向かう【方向】を示す
「~に」は【目的地・着地点】を示す

この使い分けが生きてくるのが、『新基礎』13課である。

第13課 例文7.東京へ 何を しに 行きますか。
…友だちの うちへ 遊びに 行きます。

『新基礎』では、以下のように助詞を教える。

【場所】へ【目的】に 行きます/来ます/帰ります

実際の言語生活では「【場所】に」も非常によく使われていて、「【場所】へ」の勢いを上回っているのではないだろうか。

ちなみに、名詞修飾(例:「外国への小包」「母への手紙」)の場合は「~に」にその働きがないため、一概に「~へ」をないがしろにはできない。

それで、私が最初に肝に銘じたことは、「日本語を教えるときは、「【場所】へ」ということ!」

そして、しばらく経ってすっかり「【場所】へ」に慣れたころ、非漢字圏の社会人向け教科書、
『Japanese for Busy People Ⅰ』1995年刊 国際日本語普及協会(著)
を使う機会が訪れた。

Lesson 6「きょうとに いきます」

この本の解説では「【場所】へ/に」はどちらでもいいとし、本文ではすべて「【場所】に」を使用している。

言い間違えても解説に救われるとはいえ、導入したい文型がふらふらしていては、覚えてもらえない。

いったん「【場所】へ」を「【場所】に」にリセットしなくてはならなかった。でも、当時は『新基礎』を教える頻度が高く、なかなか切り換えられなかった記憶がある。

おそらく『Japanese for Busy People』の考え方は、どちらでもいいのなら、汎用性のある「に」を教えておいた方がよいというものだろう。非漢字圏の英語のできる、時間のない社会人日本語学習者は
それほど日本語学習に時間をさけないというのが前提にあるからである。

『新基礎』はこれから日本の大学に進もうとする就学生を対象に多くの日本語学校で使用されていたため、中上級へ進むことも考え、使い分けを重視しておく必要があるのである。

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