chic : 仏ファッションに対するコンプレックス? 『ファントム・スレッド』

ダニエル・デイ・ルイス Daniel Day-Lewis 扮する、判で押したような日々を送るイギリス人仕立て屋 Reynolds Woodcock。生活の様々なディテールにこだわりがある。

食事の物音に非常に敏感。バターをたっぷり使った料理が嫌い。アジアチックな鉄瓶と茶碗でお茶を飲む。木曜日の晩は散歩に出る。

いかにもイギリス的ではないか。ステレオタイプに過ぎないのだろうとは思うが、こういう真面目で頑固なイギリス人のこだわり方はけっこう好きだ。

ただ、いっしょに生活するとなるとかなり面倒くさそうではある。

それはさておき、ダニエル・デイ・ルイス扮する仕立て屋が「シック chic」という言葉にキレル場面が気になった。

仕立て屋が店の管理をする姉シリル(Lesley Manville)と得意客の一人がしばらく来店していないことについて話している。

「何が問題なのだろう。一生懸命美しいドレスを作っているつもりだが」という仕立て屋。

「彼女たちはファッショナブルでシックなものを求めているのよ」と事もなげに答える姉。

すると「シック」ということばにカチンと来た仕立て屋が、おもむろに八つ当たりを始める。

“Chic? Oh, don’t you start using that filthy little word,” he says, raising his voice. “Chic! Whoever invented that ought to be spanked in public. I don’t even know what that word means! What is that word? Fucking chic! They should be hung, drawn, and quartered. Fucking chic.”

( The CUT  Phantom Thread Has Finally Killed the Word ‘Chic’からの引用)

関西弁に訳してみると…

「シック? えらい汚らしい単語使うやんか」声を荒らげる仕立て屋。「シック! こんな言葉を発明した奴は張り倒したらなあかん。こんなことば意味わからんし! なにがシックやねん! そんなこと言うてるやつらははらわたえぐって八つ裂きにしたったらええねん。くそったれ。」

突然のえらい剣幕である。

「chic」は仏語起源の語だが、英国では使われ始めてまだ日が浅かったのか。 生真面目な英国ファッションはフランスの華やかさにはかなわないというコンプレックスか…。

どこの国にも外来語を使って、聞き手をけむに巻きつつ、イメージをかき立てるという手法が横行している。日本だと特にファッション業界と洋菓子業界。

英語と日本語が節操がないだけのようにも思えるが…。中国語とフランス語に関しては外来語の取り入れに懐疑的で、極力自国語に訳そうと努力していると思う。

ちなみに、このThe CUTの記事は映画『プラダを着た悪魔』の中でメリル・ストリープが「セルリアン・ブルー」のセーターについて一講釈垂れる場面をリンクで引きながら、このダニエル・デイ・ルイスの chic 談義も物議をかもしそうだと言っている。

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