尴尬 gāngà ばつが悪い

漢字が複雑なわりにはドラマにしばしば現れる。耳になじんですでに久しい。だが、当初字幕に出たこの難しそうな漢字を見たときはため息が出た記憶がある。

先日、授業後に《尴尬》は日本語で何と言うか中国の学生に訊かれた。とっさに浮かんだのは「恥ずかしい・気まずい・awkward」だった。

ゼミの先生に日本人学生の前で日本語の間違いを指摘されると《好尴尬》なのだそうだ。私は「恥ずかしい」でいいんじゃないの? と言ったが、彼女はうんと言わなかった。それで「気まずい」と言っておいた。でも、私の中ではどうも「気まずい」ではしっくりこなかった。

尴尬 gāngà の日本語訳

小学館『中日辞典』
「ばつが悪い・具合が悪い」

白水社 中国語辞書
1(顔つき・態度が)困惑げである,ばつが悪い.
2(事柄が複雑微妙で)処置に窮する,進退窮まる.

goo辞書
「厄介な・気まずい」

《尴尬》は形容詞だが、weblioでは「弱る・困る・当惑する」など動詞の訳語が挙がっていた。

『新漢語林』では「尶」の字は「尲」の異体字としている。「尶尬」は日本語ではカンカイと読み、その意味を「①正しく歩けない ②食い違う」としている。

なんだか不親切な訳で例文もないが、載せているだけでも珍しい。想像力を膨らませれば中国語の《尴尬》となんとかつながらなくもない。

私はこの中で「ばつが悪い」が最も誤解を生みにくく、守備範囲が似ていると思った。だが、なぜ「ばつが悪い」はすぐ頭に浮かばなかったのだろう。

語彙力.comというサイトに「ばつが悪い」の解説があった。

ここに書かれているとおり「ばつが悪い」を自分で使うかと言うと使わない。意味はわかるが使わない。それは「慣用句」だからなのだろうか。

「気まずい」は今でもよく使われる。それに対して「ばつが悪い」「きまりが悪い」にはやたら昭和のにおいがするのは気のせいだろうか。

ことばや表現が廃れていくのにはきっと理由があるはずだ。漢字表記がなく、意味的な透明性に欠けるからにちがいない。

「ばつが悪い」の「ばつ」は「罰」や「×」でないことは確かだ。場都合(ばつごう)の省略とも言われるが真偽のほどは定かでない。

「きまりが悪い」の「きまり」も「ルール」を表す「決まり」とは違う。『デジタル大辞泉』によるとこの「きまり」は「面目・体裁」を言うものらしい。

このように語形から意味を類推しにくくなっているものは、徐々に使われなくなっていくのだろう。使われないと意味の理解ができない人が増え、知っている人も通じない恐れがあるので、使わなくなる。

逆に漢字があるが、あまり意味的に透明とはいいがたい語が流行語のように頻繁に使われるようになることもある。

この《尴尬》という語に似ていると私が一人で勝手に考えているのが、日本語の「顰蹙(ひんしゅく)」である。この語でしか見かけない複雑な漢字を使った熟語で、私を含め、漢字で書けない人が多いにも関わらず、かなり高い使用頻度を誇っている。

中国には平仮名などなく、漢字しかないのだから《尴尬》を書けないわけがないとしても、なんでわざわざこんな難しい漢字の言葉を使っているのだろうと不思議に思うからである。

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