『ニューアプローチ基礎編』第15課は富士登山の話で、八合目の山小屋で仮眠をとるという話が出てくる。
本文読解の前に新出語の意味を確認していたら、学生の一人が「仮眠」の意味がわからないと言った。
「わかる人説明してください」と言うと「寝てるフリをする」と台湾人学生。
なるほど。「仮」の字を「仮病」のときのように「にせの」という意味でとったわけである。
「仮眠」は少しだけ眠ることだと説明し、消防士や看護師などが夜勤のときなどに交代で何時間か眠ったりすることだと説明した。
「にせの」という意味と「かりの」という意味は近いようで誤解を招くこともあると思った。日本語の「仮名(かめい)」は実名を伏せるために使う名のことだが、「偽名」の意味ではない。
中国語では繁体字であれ、簡体字であれ、「仮」という日本の新字体は使われない。日本の旧字体と同じ「假」を使っている。
中国語の「假」の字は読み方が二種類あり、jiǎと第三声で読めば「にせの」という意、jiàと第四声で読めば「休み」の意味になる。
《假名》には「日本のかな文字」の意味もあるが、「偽名」の意味にもなる。《假睡》と言えば「たぬき寝入り、寝たふり」のことだ。
「假(仮)」という漢字の意味を『新漢語林』(大修館書店2004-2008)で調べてみた。すると「にせ」「かわりの」以外にさまざまな意味があることがわかった。全く聞き覚えのない「借りる」「貸す」などとともに「ひま、いとま」というのもあった。
日本語では「假」を「休み」の意味で使うことは非常にまれで、「暇」を使うのが一般的だ。ところが中国語ではもっぱら「假」の字を使っている。日本語の「休暇」は中国語では《休假》と「にんべん」の「假(仮)」の字を使うのである。
これは少し気を抜くと書き間違えるし、見間違えやすい。日本語の「暇(ひま)」と「仮(かり)」は似ても似つかないが、中国語の《假》は「暇」の字と似ているからである。
私は長らくこの微妙な違いに注意を払っていなかった。「假(仮)」の字が実は休みの意味で使われているのだと知ると、非常に奇妙な気持ちになった。
日本語でよく使う《暇》xiáの字も中国語で使われないわけではないようだが、日本語ほど一般的な文字でもない。「休み」は「日」へんでしょ!と思う私は日本語のバイアスがかかっているからそう思うのにちがいない。
一衣帯水…。近いが遠い日本語と中国語である。
ちなみに、「仮眠」は中国語では《假寐》jiǎmèiとなるらしい。なんだ?この「寐」という字は! 「寝る」という意味らしいが、「寝」とも違う字らしい。あーあ、こういうことを調べ出すと本当にキリがないのである。