久しぶりに初級を教えている。しかも、今さらながら、初めての『げんき』(ジャパンタイムズ)である。すでに第2版が出ているというのに。『新日本語の基礎』や『みんなの日本語』等のスリーエーネットワークの初級教科書に慣れてきた私にとっては、何かと驚きの連続である。
『げんき』の絵カードはCD-romで持っているのだが、デジタル教材は今一つ使い方がわからない。印刷してもぺらぺらの紙では扱いづらいため、結局講師控室に置かれている『新日本語の基礎Ⅰ』の絵カードを使っている。A3判でしっかりしたボール紙に印刷されている絵カードだ。
『新日本語の基礎Ⅰ』では形容詞の2枚目の絵が「ハンサムな」だった。七三分けの真面目そうなサラリーマンが描かれている。だが、「あの人はハンサムです」などという表現にいまどき出会うことがあろうか。
『げんき』では「ハンサムな」ではなく「かっこいい」を導入する。学生たちに『新日本語の基礎Ⅰ』の形容詞2枚目の絵カードを見せると、間髪入れずに「かっこいい!」という声が返ってくる。聞くたびに「お~! かっこいいか~」と感心してしまう自分が笑える。
さて、今日はshort form(普通形)の復習。形容詞の否定形を練習していると、よくできるロシアの女性が「かっこいくない」と言う。すると、すかさず、これまたよくできるフィリピンの男性が「かっこよくない」と言い直した。しかし、そのロシアの女性はどうも納得が行かない様子。しばらく教科書をぱらぱらめくっていたかと思うと、おもむろに「かわいい」「かわいくない」と活用の書かれたページを指さした。
かわいい 〇 かわいくない
かっこいい ✕ かっこいくない
〇 かっこよくない
どちらも最後に「いい」がつくのに、なぜ「かっこいい」だけが「かっこよくない」になるのかと尋ねているのである。
すると、私が説明するより先に、先ほどのフィリピンの学生が「かっこいい」は good-looking で、「かっこいい」の「いい」は good だが、「かわいい」の「いい」はgood ではないと。
そう言われて、第5課の語彙リストを確認すると、確かに以下のように書かれていた。
good-looking (conjugates like いい)
なるほど。私たちには何が問題かピンと来ないような疑問であっても、教科書にはきちんと説明がある。さすがだ。
長年教室では「ハンサムな」に慣れ親しんで来てしまっていたために、「かっこいい」の活用の落とし穴にこれまで気づくことなく来てしまった。そのことに恥じ入りつつ、日本語教師たるもの、今後も日々精進する必要があることを再確認した。