睡眠不足状態の18:20の回。フランス映画だし、眠ってしまったらどうしようと心配したが、瞬きする間も惜しいほど、目が離せなかった。
物語は1920年モロッコで逮捕された男性が尋問を受ける場面から始まる。小気味よいテンポで画面がどんどん切り替わる。20世紀初頭のレトロな美術が素敵だ。
第1次世界大戦のシーン。景気よく爆弾がドンドーンドドーンと爆発する。生き埋めになり、土の中に開いた眼が映る。好戦的なたった一人の上官のせいで多くの命が犠牲になるのも、何やらコミカルなテンポで、悲惨なのに深刻でない。ただ、強い憎しみは心に残る。
負傷し、うちへ帰りたくないというエドゥアール。彼の描く絵も次から次へと変わる仮面もとてもセンスがいい。実家の大金持ちぶりがまた笑える。シャンゼリゼ通りに面し、ベルサイユ宮殿かと思うような装飾の施された門。言いなりの政治家たちとエドゥアールの厳格な父との会話はまるで掛け合い漫才だ。
盗みや詐欺もあちこちでまかり通っていて、アルベールは楽しそうにさまざまな悪事に手を染める。痛い目にも合うが、彼は彼なりに必死で生き抜こうとしている。そしてエドゥアールを恩人、そして友人として助ける。
この映画の良さは何よりも見終わったあとすかっとするカタルシスにある。絶対に損はさせないので、ぜひ見に行ってもらいたい。久しぶりのフランス映画の娯楽大作だ。
「テリー・ギリアム、ティム・バートン、ジャン=ピエール・ジュネを彷彿とさせる」というのは当たっている。このコピーがなかったら、きっと見に行っていなかった。特にジャン=ピエール・ジュネの『アメリ』は何度も何度も繰り返し見た。
しかし、我ながらフランス映画を久しく見ていないことに驚いた。知らない俳優ばかりだ。主役アルベールを演じていたのは監督アルベール・デュポンテル。顔が半分吹き飛んだエドゥアールはナウエル・ペレーズ・ピスカヤート、なんとアルゼンチン人だ。彼は「BPMビート・パー・ミニット」で有名になったようだ。
そう言えば中国語が少し出てきた。アルファベットの読めない中国人たちに埋葬の仕事をさせたために、墓碑の名とはちがう遺体が埋められたという場面である。2,3人の中国人作業員たちが一斉にわちゃわちゃっと中国語を話す。本当だったら通じないのだから中国語で話しても無意味だ。「やっぱりわけがわからないよね、中国語は」と、フランス語の慣用句を裏付けているようで、ここもコミカルだった。監督はあちこちに楽しみをちりばめている。
最後はほろりとさせられるシーンもある。特にフランス映画にこの手の「ほろり」は今まで期待したことがなかったので、イメージを改めなければと思った。こんなにテンポもセンスもよくて、笑えて、泣けて、幸せになれる映画はなかなかない。