ブリティッシュ・エアウェイズのロンドンから羽田へと飛ぶ飛行機の中で2017年アメリカ映画 The Shape of Water を見た。小さい画面だったが、いろいろと考えさせられる点が多く、5日経った今でもさまざまな場面が心から離れない。さすが第90回(2017年)アカデミー賞受賞作。作品賞、監督賞、作曲賞、美術賞の4部門で受賞している。
最初、出てきたイライザ役の女優サリー・ホーキンスが魅力的に見えないことにがっかりした。だが、青みがかった地味な画面はセンスのいい美術とマッチしてレトロで素敵だ。
水の中の怪物も怖くていやだなと思っていた。実際、最初は水かきのついた手や青緑色の体、ぎろぎろと奇妙な瞬きをする目に最初はギョッとする。
それが、見ていくうちにイライザもどんどん魅力を増して輝きだし、水の中の不思議な生き物もかっこよく見えて来る。そして、二人を一生懸命応援したい気持ちになる。すごい映画だ。
そして、気になるキーワード「ティール teal」だ。偉そうな軍人ストリックランドが新車のキャデラックを購入する際に選んだのが青緑色で、この色は「ティール」と言うのだというセールストークを聞く。
実は、つい最近ロンドン旅行のために買ったキャリーケースがこの「ティール」色だった。そのときは「ティール」だと意識して買ったわけではなかった。ただ、黒だと荷物台の上で見つけにくいと思ったためである。購入後、どんな洋服にも合うという色ではないなあと若干後悔していたのだが、この映画を見て、やはりこの色にしてよかったと思った。
件のキャデラックは買って数日も経たないうちにひどく傷つけられてしまうのだが、この映画全体に満ちている「ティール」色には深いメッセージが込められていると「勝手に」かもしれないが、感じてしまったのである。
書店の店頭で何か月か前に『ティール組織:マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(フレデリック・ラルー(2018) 英治出版)という本を手に取って眺め、帰宅後ネット検索した。全くもって「今ごろ何を?」という疎さではあるのだが、私にとっては2019年2月の今まさに、このティールの波が押し寄せているのである。
「ティール組織」について、まだうまく説明することはできない。だが、この映画の中の、絶えず怒っていて、人を威嚇してばかりいるストリックランドはその対局にある。そして、イライザと不思議な生き物との恋愛は「ティール組織」の象徴のように思える。二人を支えるジャイルズ、ゼルダにホフステトラー博士。みんなの助言を仰ぎながら、口のきけないイライザが驚くべきことを成し遂げる。
「ティール組織」は主に会社のマネジメントの方法として書かれたものだが、わたしなりのことばに直すと主に以下の3つの骨子からなる。
1 存在意義について考える
2 自主的に行動する(ただし、助言を得ながら)
3 全体性(長所も短所も含め、全体として自分も人も認める)
私はこれを教育現場にも子育てにも応用すべきだと思う。
怒られたり脅されたりすると人は結果を出すかもしれないが、それでは幸せとは言えず、フラストレーションがたまり、いずれ限界が来る。もっと大きな力が持続的に発揮できるのは、人が自分の存在意義について考え、ありのままの自分(と周りの人)を認めたうえで、それぞれが自主的に行動するときだ。「オートノミー(自律)」の概念に近いと思う。
子どものすることにいちいち目くじらを立て怒り続けている私、学生たちの怠慢にため息する私、こういった今までの私に決別するためにもこの春休みはこの「ティール組織」についてさらに理解を深め、実践して行こうと思った次第である。
「シェイプ オブ ウォーター」の映画評、風の噂程度に当時は聞いていたのだが、『ティール組織』と絡めたものもあったのだろうか。よくわからないが、少なくとも私の中ではブーム到来。スーツケースの色が輝いて見える今日この頃である。