台南名物「サバヒー(虱目魚)」は台湾語からの借用語

以前、中国語からの外来語というのを調べたことがある。

広い意味では、音読みする大多数の漢語は中国語からの外来語と言えるわけだが、知りたかったのは音読みではない近代の中国語音で読む外来語だ。

例えば、「ギョーザ(餃子)」に「チンジャオロースー(青椒肉絲)」、「レンチャン(連荘)」に「ツモ(自摸)」など荒川惣兵衛(1967)『角川外来語辞典』から中国語起源と書かれているものを抜き出してみた。多かったのは中華料理のメニューと麻雀用語。

荒川惣兵衛氏(1898-1995)は名古屋の元英語教師で市井の外来語研究者だが、台湾の日本統治時代の影響が色濃い語彙も収録している。

例えば、魚の名前が台湾語(閩南語)の音で外来語になっていた。「レンヒー(鰱魚)」という語を見て、「魚」を「ヒー」と読むのにひどく驚いた。

さて、「サバヒー(虱目魚)」である。
学名 Chanos chanos
英名 Milkfish
北京語(虱目魚)shīmùyú
閩南語:sat-ba̍k-hî

これは、荒川惣兵衛(1967)には収録されていなかった。台南で友人が海鮮料理店へ連れて行ってくれた折、この魚の話になった。漢字を聞いて、日本語訳を調べてみると、カタカナで「サバヒー」と書かれていた。彼らに告げるとそれは台湾語だという。

一青妙(2014)『わたしの台南「ほんとうの台湾」に出会う旅』(新潮社)によると、サバヒーは生臭みのある魚で、彼女は食べられないのだそうだ。

それにしても「しらみ(虱)の目の魚」とは…。両目が脂肪性の膜で覆われているため、もとは「塞目魚」と言っていたのが、同じ発音であるため、「虱」の字を使うようになったとも(足立倫行『アジア海道紀行』(文春文庫))。

もともと台湾では、台湾語を話す人と原住民と呼ばれる少数民族たち、それぞれ意思の疎通が難しかった。そこへ日本語が入ることで、共通語としての働きをしたと言われている。今でも「気持ち」「あっさり」「看板」「たんす」など日本語が外来語として定着している。

しかし、言語の伝播は一方通行ではなかったということだ。台湾語からも魚の名前など、日本語に定着したものがあったということはそれだけ、日本の人たちが台湾に馴染んで生活していたことの証と言えるのではないだろうか。

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