「パスする」vs.「スルーする」

今日のビジネス日本語の授業で、会議のときの意見の述べ方について、外国人社員オンさんとと上司である佐藤課長が話す場面のロールプレイがあった。賛成であれば黙っていればいいのに、わかりきった意見を長々と述べたり、そうかと思うと、ずっと何も言わずに黙っていたりするオンさんに課長がアドバイスする。(『ロールプレイで学ぶビジネス日本語』第5課 p.56)

会話力のかなり高い留学生がこう言った。

例1「賛成のときは(意見を言うのを)パスしてもいいんじゃないかな」

確かにトランプの七並べなどで出すべき札がない場合は「パスする」という。「飲み会、今回はパス。」などと言ってもよい。

『英辞郎 on the web』のpassの項の7番目に以下のような記述がある。

〔申し出などに対して〕やめておく、遠慮する
・”(Does) anyone want some cake?” “Hmm, I think I’ll pass.” :
「誰かケーキを食べますか」「んー、私は遠慮しておきます」
・No, thanks. I’ll pass. :
誘ってくれてありがとう。だけど[悪いけど]、私はパス。
/せっかくだけど、やめとく[遠慮しとく]よ。
【場面】勧誘などを断る。

日本語の「やめておく」という意味の「パス」が英語の用法から来ていたとは…初めて知った。

しかし、この場面では「パスする」ではなく、「スルーする」と言うべきだ。

例1´「賛成のときはスルーしてもいいんじゃないかな。」

元の英語の「through」は動詞でないのに、日本語では動詞の意味を持つ。俗語としては非常に使用頻度の高い語だ。しばしば「既読スルー」がコミュニケーション上の問題になっていることも記憶に新しい。日本語の辞書では次のように記されている。

スルー(through)『デジタル大辞泉』
[名](スル)
1 テニスで、ネットが破損し、ボールが網の目を通り抜けて相手方のコートに落ちること。
2 複合語の形で用い、通り抜けの、素通しの、の意を表す。「ドライブスルー」「フォロースルー」「シースルー」
3 球技のパスワークで、一人飛ばしてパスをすること。「味方選手をスルーしてゴール前のフォワードにボールを送る」
4 そのまま通過すること。「その信号はスルーして次の交差点を右折してください」
5 俗に、受け流すこと。何もしないで待っていること。「興味のない方はどうぞスルーしてください」

このロールプレイの場面では「聞き流す」が近い。「スルーする」には「パスする」に含まれる「断る」のような積極的な動きはなく、ただただ、「何もしないでやりすごす」態度なのである。しばしば「無視する」とも訳される。

みんなが順番に意見を言っていくような場面なら「パスする」が通用するが、自由に発言している場面なら「スルーする」が適当だろう。

留学生たちもよく耳にしているらしく、この話題は非常に食いつきがよかった。

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