仏映画『英雄は嘘がお好き』Le retour du héros (2018)

久々のコメディー。フランス映画と言えば、一昔前は恋愛映画や難解な映画が多いイメージだったが、『英雄は嘘がお好き』は気持ちよく笑える。しかし、日本の一般的な映画館にまでたどり着くフランス映画の数自体が減っているのだろう。厳選されたレベルの高さを感じる。

『アーティスト』でオスカーをとったジャン・デュジャルダン Jean Dujardin とメラニー・ロラン Mélanie Laurent の掛け合いが楽しい。メラニー・ロランは知的でとても素敵な女性。なのに泥まみれになったり、池に落とされてずぶ濡れになったり、行かず後家のように言われたり、容赦ない扱いを受けている。

戦地に赴いた妹の婚約者(ジャン・デュジャルダン)から全く手紙が来ないので、しかたなく姉(メラニー・ロラン)が婚約者からの手紙を捏造するという話。そして、捏造された手紙は1通、また1通と続いて行くのだが、それを全く知らない本人が3年後に軍から逃亡して戻ってくる。

ジャン・デュジャルダンは恰幅のいいおじさんで、いくらボロの服を着てもこんなに大きな体では逃亡兵が命からがら逃げてきたという風には見えにくい。でも、立派な帰還軍人としてなら見栄えがよく、みんなが彼の話を信じてしまうのはわかる気がする。

どの人物もありそうなキャラクターで、またそれぞれにデフォルメされたおもしろさがちりばめられており、非常によくできた脚本だと思う。マゾの気のある妹や典型的な反応の両親、金儲けに目がくらむ周囲のジェントルマンたちなど、クスっと笑える要素がうれしい。

ところどころにナポレオン時代を感じるシーンも。宿の窓から投げ捨てられる水。あれはきっとお小水にちがいないとか。パーティーの最中に庭でいろんな人が逢引きのためにさまよっているとか。

それにしても、こんなにわかりやすくて楽しいのはフランス映画のイメージとは少し違う。だが、たまにはこういうのも日本に来てくれるとうれしい。フランス語だけではきっと聞き取れないが、日本語字幕付きでフランス語を聞くと理解度が高まり、頭の引き出しの隅を掃除してちょっと風を通したような気分になった。

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