アクセントのミニマルペアとは以下のようなものを言う。「箸・橋・端」「花・鼻」 などが有名だが、意外なミニマルペアが見つかったので、メモしておきたい。
東京方言のアクセント型には、二拍の名詞の場合、以下の三種類が存在する。名詞単独の場合、1と2・3のアクセントに差はないが、2と3はあとの助詞が高く付くかどうかのちがいである。
- 箸 はしを(もつ) 高低(低)頭高型
- 橋 はしを(わたる) 低高(低)中高型
- 端 はしを(あるく) 低高(高)平板型
しかし、現代日本語の場合アクセントだけで弁別される語(ミニマルペア)はさほど多くない。地域差もあるが、理解できないというほどではないため、アクセント教育はそれほど重視されていないという現状がある。
さて、本題に入る。2019年7月18日京都アニメーション放火事件が起こり、国内外から多くの人が火災現場へ献花に訪れていることは報道で目にしていた。プレゼンテーションの授業で行った「気になるニュース」の発表で、ある中国人留学生がこの事件をとりあげた。いつも以上に熱のこもった発表で、スライドも非常にわかりやすく整理されていて感心した。
それまで京都アニメーションという会社があったことも知らなかった私はなぜこれほどまで支援の輪が広がったのか、彼の発表のおかげでやっと理解できた。
その彼が授業の終わりがけに、「京アニにケンカに行って来た」と言った。ここまで状況がそろっていながら、私はこの学生の発話したアクセントどおり「喧嘩( quarrel ・fight)に行ってきた」と理解し、しばらく「?」と頭の中が混乱し、反応できなかった。実際はもちろん「献花( flower offering )」行ってきたと言いたかったのだった。
アクセントのちがいは以下のとおり。
- けんか(喧嘩) 低高高 平板型アクセント
- けんか(献花) 高低低 頭高型アクセント
日本語学習者でなくとも「献花」は決して一般的な語彙ではない。使用頻度から考えても「喧嘩」の方が圧倒的に身近だ。使い慣れないことばを発話しようとして既知の語のアクセントに引っぱられるというのは考えられることだ。
それにしても、アクセントしか聞いていないと言われる関西人を露呈してしまった一件であった。容疑者のようになんらかの原因で腹を立て、「喧嘩に行く」こともできるところが混乱の元と言える。
謹んで犠牲者の冥福をお祈りする。