1 今日はテストがありますので、はらはらします。
2 サークルで鬼ごっこして、みんなはらはらした。
3 子どもはまだ帰っていないので、心配ではらはらしました。
会話の授業で使用している荻原 稚佳子他著『日本語超級話者へのかけはし きちんと伝える技術と表現』(スリーエーネットワーク)の第1課で出て来る「はらはら」を使って短文作りをしてもらったものである。
1~3はどれも「はらはら」の例文としては奇妙である。最大の問題は「自分以外の誰か(何か)を見ていて心配する」という要素がないことである。
教科書に出ている穴埋め問題の文は以下のようなものである。
4 すれすれのところを主人公がすり抜けていき、本当に大丈夫かと心配で、見ているものを(はらはら)させます。
スリーエーネットワークのウェブサイト上の補助教材に出ていたのは以下の文である。
5 子どもが細い橋を一人で渡る姿を見て、心配で心配で(はらはら)しました。
どちらも「主人公」や「子ども」がどうにかなるのではないかと心配しながら見守っている。
『デジタル大辞泉』(小学館)には次のように書かれている。
成り行きを危ぶんで気をもむさま。
「わが子の初舞台をはらはらしながら見守る」
国語辞典の意味の記述はさすがだ。「成り行き」や「気をもむ」といった表現は留学生には理解しにくいとは思うが、「心配な気持ち」というような漠然とした解釈ではなく、本質をつかんでいる。
「はらはら」の訳語を手元の電子辞書で調べると「非常担心的样子、提心吊胆、捏把一汗」「feel nervous, thrilling, in suspense, on pins and needles」などが出てきた。訳語もなかなかバラエティーに富んでいる。だが、冒頭のような短文を作らずに済むかというと心もとない。
擬音語擬態語はなぜか母語話者の場合、特に学習しなくても感覚が身に付くのに対して、非母語話者はかなり上級になっても感覚がつかめないものだ。敬語など母語話者でも時間がかかるものとはわけが違う。
だが、感覚の問題だとあきらめていてはいけない。丁寧な説明と例文が必要で、それさえあれば学習者も短文作りができるようになるはずだ。問題は擬音語擬態語にそこまで時間を割けないという点だろう。