NHK教育テレビの『ハッチポッチステーション』という子ども向けの番組で放送されたというグッチ裕三の「ボヘミアンラプソディー」と「犬のおまわりさん」を合体させた替え歌の動画を見た。
歌詞は以下のとおり。
ママ~ どこなの
ぼく迷子になって
今ひとりなの
ママ~ 財布なくして
電話するお金も無いんだママ~ ぐぐぐぐ・・・
おなかの虫が、ほら泣き出してるよ
ママ~迷子の迷子の子猫ちゃん
あなたのおうちはどこですか?
わからないの お金もないの借りれよ~ 借りれよ 借りれよ~ 借りれよ
借りれよ はやく そりゃムリだ~おうちを聞いてもわからない
名前を聞いてもわからい
泣いてばかりいる子猫ちゃん
2時間たってもわからないそうだママの名前はみよこ~ 名前はみよこ
おママみよ ママみよ ママみよ いずこ
ポリス ポリス ポリス~~CD:ハッチポッチステーション ~ベスト・オヴ 江戸川サリバンショー~
小6のとき、息子が定期券を落として塾から帰れなくなったときのことを彷彿とさせる。なんてよくできた歌詞なんだと感心する。
特に秀逸!とあちこちで評判なのが、
Queenの元歌「ボヘミアンラプソディー」で
「ガリレオ~ガリレオ ガリレオ~ ガリレオ ガリレオ フィガロ」
という部分を
「借りれよ~ 借りれよ 借りれよ~ 借りれよ 借りれよ 早く」
としているところ。
だが、なぜ「借りれよ」と言えるのか、不思議でたまらなくなった。
他に「借りれよ」の用例がないかと思い、ググってみたが、「借りれ(る)」でヒットした消費者金融のページ以外はすべてこのグッチ裕三の替え歌の歌詞だった。「借りれよ」は標準語では一般的に使われていないということを表している。
まず標準語の文法で考えてみる。
「借りる」は上一段動詞(Ⅱグループ)なので、命令形は「借りろ」となるはずだ。
「帰る」のような五段動詞(Ⅰグループ)なら、命令形は「帰れ」である。
それに、終助詞の「よ」が付くわけだから、
「借りる」は「借りろよ」
「帰る」は「帰れよ」
つまり、この「借りれよ」は動詞の活用をわざと間違えて、無理やり五段動詞のように活用させて作られた形なのである。でなければ、一段動詞の五段化が進んでいる方言である。
命令形としての
「借りれ/食べれ/起きれ/見れ…」
といった形は新潟以北の東北日本海側や出雲地方で現に使われているそうである。方言に存在する形であることが、意味を取り違えられることなく、なおかつ、笑いをとれる要因となっているのかもしれない。
さらにうっとおしいようだが、音声的類似について述べておくと、「ガリレオ」と「借りれよ」は冒頭のg/kの子音が有声・無声で対立しているが、最期の音節が半母音を伴う/yo/か/o/かは一続きになると大差なく聞こえる。
「借りれよ」の「ガリレオ」との音声的な距離の近さと「借りれよ」の意味の歌詞へのハマり方が、この替え歌を絶品にしているわけである。一度ご視聴いただきたい。