『女王陛下のお気に入り』ある意味リアルな時代劇…

3月1日映画1100円の日。第91回米アカデミー賞でオリヴィア・コールマンが主演女優賞を受賞した『女王陛下のお気に入り』を見に行った。そんなに大きな部屋でなかったせいもあるが、12:50からの回は満席だった。

水曜レディースデイではないからだろうが、意外に男性が多いという印象を持った。さすがに今話題の映画だからか。

しかし、「英国版大奥」は言い過ぎだろう。女の攻防がクローズアップされており、ウィキペディアには「歴史コメディ映画」と書かれていたりもするが、注目すべき点は18世紀の現実を非常にリアルに再現しようと試みていることだと思った。

宮廷に上がろうというアビゲイルが馬車から泥沼に落ち、全身泥だらけで到着する。しかも、変なにおいがするという。トイレも何も厳密に区別されていなかっただろう時代のことであるから、こういう衛生観念、ありえると思った。

政治も鴨レースも同じ次元で語られ、登場人物は人間的でこらえ性がなく気まぐれだ。いつもの歴史映画の規範に縛られた、深刻で重々しい感じがこの映画にはまったくない。貴族だからといって、みんながみんな理性的だったかというとそうではないだろう。実際はこんなものだったという解釈は実におもしろい。

劇中、本物のろうそくしか使っていないのではないかというほど、宮中の廊下など明かりが乏しい部分がある。昼間でも真っ暗なところが多々あり、窓のある広間に出て、あー昼だったのかと思うことが何度かあった。

森の暗さ、夜の闇など、本物ほどではないにせよ、かなりリアルに作られていた。闇に対する感覚がきっと今とは全く異なり、闇なら大胆にもなれるし、逆に闇を恐れる気持ちも強かっただろうと思った。

男性たちのカツラと化粧の風習は、現代から見ると非常に滑稽だ。その方が見栄えが良いと感じるその感覚がわからない。素顔はイケメンなのに、白塗りしてカツラをかぶるとバカ殿。

女王の孤独は壮絶と言えるほどだ。17匹のウサギがそれをさらに痛々しいものにする。なぜ17回も出産してどの子も成人しないのか。なにか陰謀があったのでは、と思わせるほどだ。

この作品では、「音楽」というか「音響効果」というか、その中間的な部分でおもしろい試みがなされていた。バイオリンの弦を「ギー、ギー、ギー、ギー…」と打楽器のように使い、同じ音が続く。そして、場面が盛り上がってくると音量や高さが変わる。これは何の音?と初め思ったが、盛り上がっていくのを聞いて、一応音楽なのだと認識した。

この映画はアカデミー賞のみならず、様々な賞にノミネートされているが、音楽についてはほとんど語られていない。日本版公式ホームページにはスタッフの名前すらない。英語のページに行って初めて記述を見つけた。

バッハ、ヘンデル、ビバルディ、シューマン、シューベルトといったバロックや古典の音楽を使用したが、20世紀の音楽も使用したとのこと。音楽と音の間にあたるものはイコライザーで作ったようである。現代版、武満徹のようなものか。

映画の終わりのエンドロールで、音楽が終わった後もまだクレジットが続くのだが、しばらくさまざまな種類の鳥の声が聞こえた。イギリスに行っていなかったら、どこの動物園?などと思ったかもしれないが、ロンドンの街中のリージェンツ・パークでもセント・ジェームズ・パークでも日本ではありえない数と種類の鳥が我が物顔で川べりを占領していたのを思い出した。

鳩が数羽くらいだと無邪気な感じだが、ペリカンのような大きな鳥も混じって何百羽にもなるとかなりの脅威である。そして、「烏合の衆」ということばが脳裏をよぎった。

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