台北捷運 MRT《市政府》駅から少し歩いたところにある松山文化創意園區には元タバコ工場をリノベした展示館群がある。ここのことを《松菸》というのだが、当初この《菸》という漢字が読めず、調べてみた。
『新漢語林』によると「菸」の字義は以下のとおり。
①かおりぐさ
②しおれる
③たばこ
「菸」はyānと読み、「たばこの葉」を意味する。つまり、《松菸》というのは《松山菸工廠(松山のタバコ工場)》の省略なのだ。
そう言えば、台湾の繁体字ではタバコを吸うことを《吸菸》と表記している。大陸の簡体字では《吸烟 xīyān 》と書く。しかし、この《菸》と《烟》は果たして同じ発音の繁体字と簡体字の関係だろうか。
大陸の《吸烟》は日本の「喫煙」同様、煙(けむり)を吸うが、台湾の《吸菸》はタバコ(草)を吸うという意味で、「煙」という意味ではない。
なぜ日本も大陸も「タバコ(煙草)」を「煙」で代用するようになったのに、台湾は草の意味を持つ《菸》を使っているのだろう。日本でも以前「菸」の漢字を使っていたことがあるのだろうか。
日本で「菸」の字は見当たらなかったが、タバコを表す国字として「莨」というのがあったようだ。昔の人にとってタバコは気分のよくなる「良い草」だったのだろう。
『新漢語林』によると、国字としては「莨」は「たばこ」としか読まないが、中国の漢字としては「ロウ lang」という音読みがあるという。意味は
①ちからぐさ
②おおあわ(梁(リョウ))
などで、草の名前に使われる。
火ヘンの「煙」と草かんむりの「菸・莨」ではそもそも表しているものが異なるわけだ。
そもそも日本語の「煙草」は「たばこ」とひらがな表記されたり「タバコ」とカタカナ表記されることもある。英語でもtobaccoと言い、日本語の「タバコ」という語は、ポルトガル語またはスペイン語の tabaco に由来する外来語だと言われている。
南米原産で、15世紀にヨーロッパ人が新大陸に到達して以降、急速に世界中に普及した。17世紀初頭頃までに日本へも入ってきたと言われている。しかし、最近たばこの有害性が明らかになり、喫煙者も減少の一途をたどっている。近い将来、「煙草」ということばが死語になる日も近いのではないだろうか。そうなると台湾でも「菸」の字が必要なくなるのかもしれない。