「もう少しちぢんでくれませんか」自動詞と他動詞

『上級レベル ロールプレイで学ぶビジネス日本語』第3課の最後に異文化ロールプレイ「休暇の申請」というタスクがある。キランさんという入社2年目のインド人社員が1週間の休暇願いを渡辺課長に出すという場面である。

キランさんが休暇が欲しいのは、来月兄弟同様の付き合いをしてきた友人の結婚式が故郷であるからである。ただ、会社では大型プロジェクトが進行中で一番忙しい時期に差し掛かっているため、課長は休暇を短縮できないか、休暇中の仕事はどうするかということを尋ねていく。

このロールプレイでキランさん役はどんなに大事な友人かを説明し、なんとか休みをくれるよう課長に懇願する。このときの課長役は好青年の中国人留学生。「ちょっと一週間は長いですね。もう少しちぢんでくれませんか」と発話した。おそらくなんとかもう少し短くできないかと尋ねるつもりだったのだろう。

これが私の笑いのツボにハマってしまい、何度も可笑しさがこみ上げてきて笑いをこらえるのに苦労した。

私の頭に浮かんだのは「亀のように首をすくめるキランさん」の姿だった。

日本語の自動詞と他動詞はよく似た形の別の動詞が対になっていることが多い。

ワンピースの丈ちぢめる(他動詞)
乾燥機に入れると洗濯物ちぢむ(自動詞)

この自動詞と他動詞の対の形には何種類ものパターンがあり、一定のパターンに当てはめればOKというものでもない。二つのよく似た語を一つは自動詞でもう一方が他動詞…と意識しながら覚えていかなくてはいけない。

日本語がかなり達者な上級者でもこの区別があいまいな人は多々いる。私も長らく学習者の日本語を聞いてきて、笑いのツボに入ることはめったになくなったのだが、このときだけはなぜかヒットしてしまった。

だが、学習者の日本語を笑ってはいけない。まちがいは上達のために必要な過程なのだ。私自身今までに外国語でどんなとんでもない文を作ってきたことか。まちがえてまちがえてまちがえて、人は言語を習得するのである。

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