マシュー・ボーンは『白鳥の湖』が出世作だというので見てみた。1995年初演のアダム・クーパー主演のものではなく2012年版だった。【ネタバレあり】
強烈なインパクト。おもしろくてわくわくする。男女の恋愛が描かれない『白鳥の湖』なんて想像もしなかった。そして、なんて力強い白鳥たち。筋肉隆々の男たちが短髪に白塗りをして踊るのは、女性らしさが強調されたバレエの白鳥とは対照的だ。そして、白鳥たちのふるまいもずうずうしくギラギラしている。
白鳥という鳥は水面では涼しげな顔をして浮かんでいるが、水面下では必死で足をバタバタさせているという。獲物をつかまえるときはぐわっぐわっと鳴いて獰猛な様相を見せるそうだ。マシュー・ボーンの『白鳥の湖』では白鳥という動物の野性的な残忍さがロットバルトの代わりまでするのだから驚きだ。
王子は、おとぎ話の中の存在としてではなく、現代社会の現実としてコミカルに描かれる。母には甘えられず、多くのお世話係が絶えず目を光らせている。大人になってもプライバシーが保障されておらず、パパラッチにあちこちで写真を撮られる。常に期待される役割があるため、女の子が今一つ好きになれないことも主張できずにいる。
パパラッチ…1995年初演ということはあの恋多きクイーンは英国王室のダイアナ妃を連想させたのではなかろうか。マシュー・ボーンの白鳥たちは1997年のダイアナ妃の事故死なんかおかまいなしにブロードウェイでの快進撃を続けていたようであるが。
この舞台で女性たちは嫌な存在でしかない。単純で浅はか。ゲイの人々の世界観というのを垣間見せてくれる気がした。少々ステレオタイプ的かとも思うが。
いずれにせよ、チャイコフスキーのあの音楽を聞いて、こういう話を考え出すマシュー・ボーンは本当にすごい。こんな使い方ができるのか~と唸ることがしばしばあった。特に1幕の大勢の使用人たちが王子のお世話をするシーンは楽しかった。
しかし、黒鳥オディールと王子のパドドゥの音楽が始まり、最もワクワクするはずのシーンが…こうなってしまうのか~。若干残念なものを感じてしまうにわかバレエファンの私なのだった。