期待以上! 徐誉庭の映画初監督作品《誰先愛上他的》

予想以上によかった《誰先愛上他的》。なるほど台北電影節で賞を獲るはずだ。邱澤も謝盈萱も非常によかったが、脚本(吕莳媛・徐誉庭)がやはり格別だった。YahooTV《佼心食堂》で司会の黃子佼が言っていたが、台詞の一言一言が金言というのはそのとおりだと思った。予告に集めてある台詞たち、あとで見るとどれも泣ける。

別居していた夫が亡くなり、生命保険金で14歳になる息子を将来カナダへ留学させようと思っていたら受取人が息子でも妻でもない別の男の名前になっていた。夫は実はゲイで受取人をパートナーに変更していたというのがことの始まりである。

始めは怒りを爆発させる妻劉三蓮(謝盈萱)とゲイのパートナー阿傑(邱澤)のやり取り、そこへ加わる中学生の息子の家出…と、笑えるポイント満載だったのが、それまでの経緯がわかってくるにつれて、あふれる涙が止まらなくなる。

妻の劉三蓮役の謝盈萱に私はどうしても感情移入してしまう。《花甲男孩轉大人》のStacy姐さんの時はいい女の役だったが、今回は髪を振り乱して一見エゴイスティックな母親を演じていた。ものすごい迫力だ。舞台の経験が長い役者なのだそうだ。

でも、彼女が守銭奴になるのは実は息子がかわいいからで、すべてが母性愛から生まれた行動なのだ。家出した我が子を心配して、弁当を作って着替えや蕁麻疹の薬を持って阿傑のうちを訪ね、掃除までする。本当に考えただけでも頭が下がる。私にはとてもできない。そして、夫に逃げられた妻が持つ心の痛みをずっとずっと胸に抱えている。最後は彼女の悲哀がたまらなく愛おしく感じられる。

邱澤はもともと《小資女孩向銭衝》の秦子奇が出世作で、当時からここまでのイケメンはなかなかいないと思って見ていたが、阿傑は説得力のある素敵な人物に仕上がっている。予告編ではまるでチンピラのような姿なのだが、じわじわと阿傑の魅力が、その善良さとともに現れて来る。愛する人が亡くなるというのは、どんな人の人生にとっても本当に大きな大きな出来事なのだ。

予告編といえば、暑苦しいエレキギターの響きにねっとりしたボーカルが耳につき、「なんだよ、この音楽は」と思った人もいたのではないだろうか。あのパンチの利いた<愛上你>を歌っているのは2016年に<台北直直撞(TAIPEI DIDILONG)>で大ブレイクした李英宏とセラピスト役で出ていた萬芳。劇中バスの中で邱澤が叫ぶように歌う<峇里島(バリ島)>も見終わったあとずっと耳に残る。

《誰先愛上他的》は日本にもきっと入って来るにちがいない。台湾映画なんて見たこともない人もだまされたと思って一度見てほしい。

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