ビジネスメールの書き方の課題を添削していると、つくづく日本語という言語は極力「私」や「あなた」を言わずにすませようとしていると感じる。
このメール課題は、YMプラスティックス社の林浩さんがわが社の展示会に来てくれ、貴重な意見をくれたので、そのお礼を伝えるというものである。
学習者1:「先日は、YMプラスティックスの皆様に弊社の展示会へご来場いただき、誠にありがとうございました。」
→解答例1:「先日は、展示会においでいただき、誠にありがとうございました。」
「YMプラスティックスの人」にメールを送っているという状況があるのだから、「YMプラスティックスの皆様に」と特に書く必要はない。別に書いてもまちがいではないのだが、なにやらすわりの悪い文章になる。
学習者2「林浩さんに営業サイドから貴重な意見をいただき、深く感謝しております。」
→解答例2:「営業サイドからの貴重なご意見をいただき、深く感謝しております」
これも「林浩さん」にメールを送っているのだから、「林浩さんに」は省略できる。敢えて書くなら、「林浩さんには」とすべきか。
このメール課題には、タスクとして「新しい食品構想加工への関心が非常に高いと改めて認識した」ことを盛り込むようにという指示がある。
学習者3「私は新しい食品包装加工への関心が非常に高いことを改めて認識しました。」
この突如として現れた「私は」…確かに「認識した」のは私なのだが、わざわざ言う必要性を感じない。
解答例3「(おかげさまで、多くの皆様にご来場いただき、)新しい食品包装加工への関心が非常に高いことを改めて認識いたしました。」
外国語を学ぶ際、特に初中級レベルの場合などは「誰が誰に」ということをいちいち言いたくなるものだ。それは私も同じなのだが、日本語はそれをせずに済むように敬語を発達させてきたのだろうから、「いただき、」「いたしました」と書いてある以上、「誰が誰に」は省略できるのである。
昨年久しぶりに教えた初級の学習者(台湾人)に日本語ではなぜ「あなた」(ということば)を(こうまで)使わないのかと訊かれた。すぐ言いたくなる、言いたくてたまらないのだそうである。
日本語を学ぶとそういうことを感じるのか。おもしろい感覚だなぁと思った。