「重度」と「受動」:聞き取りに柔軟性のないネイティブスピーカー

禁煙に関するディベートを授業で行っていたとき、学生たちが何度も「重度喫煙」と発話するのを不思議な気持ちで聞いていた。学生たちはお互い理解して話を進めているのだが、私一人が何やら霧の中にいる気分だった。

頭の中に何かひっかかっているのだが、出てこない。ああ、議論が見えない!

ディベートも終わりの方になって、「重度喫煙」ではなく「受動喫煙」と言っていたのだとわかり、なぜそんなに長い間ピンと来なかったのか我が身を恨んだ。

「喫煙」について話すとわかっていて、どんな意見がでるかあらかじめ予想もしていた。そこに「受動喫煙」ということばは何度も出てきていたし、これまでの経験からして「じゅどう」がうまく発音できないことは重々承知のはずだった。

なのに、である。

「じゅどう」と「じゅうど」のように長母音と短母音の発音は、その学習者の母語が何かということに関わりなく、混乱しやすい項目である。

A「じゅどう(受動)」→短長「・―」
B「じゅうど(重度)」→長短「―・」

往々にして学生たちにとって難しいのはAの短母音が前に来るパターンである。短母音を短く言うときのリズムが難しいようだ。「興味」を「きょみ」という学生はいないが、「趣味」を「しゅうみ」と言ってしまう場面にはよく出会う。

おそらく「長短」のパターンは「ちょうちょ」「ばあば」「じいじ」など幼い子どもでも言いやすいリズムなのだろう。「ババア」「ジジイ」など「短長」の組み合わせは習得の遅れるのだと考えられる。

「重度喫煙」のことから、90年代に英国航空でCA(キャビンアテンダント)をしていた人がこんなことを言っていたのを思い出した。

彼女は仕事中に glass を grass と言い間違えたことがある。英語ネイティブの同僚に「は?」と聞き返され、もう一度言ったが全く理解してもらえなかったのだそうだ。飛行機の上で「草」なんて言うはずないし、目の前にワイン用の「グラス」があるにもかかわらず…。

これを聞いて、当時はなんと柔軟性のない耳だろうと思ったのだが、実は私の耳もたいして柔軟性を持ち合わせていなかったというわけだ。そして、実はこれは耳の問題ではなく、想像力の欠如なのだろう。

今後は日本でもノンネイティブと仕事をしたり生活を共にしたり、日本語で関わる機会がますます増えるだろう。想像力を欠いた耳だと不便なことになる可能性大である。

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