2018年春節に公開された《花甲大人轉男孩》を見た。
映画では阿瑋こと方瑋琪(嚴正嵐)の両親が登場する。二人とも2011年のドラマ《我可能不會愛你》(邦題:イタズラな恋愛白書)でおなじみの顔である。程又青の母役を演じていた林美秀、李大仁の継父になる白叔を演じていた金士傑。
金士傑はいかにも台北人である阿瑋の父親らしい。教養を感じさせる北京語(台湾国語)を話すと私は思っているのだが、実際台湾の人の感覚はどうなのだろうか。今回阿瑋の父親役で現れ、台湾語ばかりで話す花甲一家に兒化音交じりの国語でまくしたてるシーンを見たときは「うーん、なるほど~」と唸らされた。非常に対照的。さすが金老師!
問題はそのあとに出てきた史黛西(謝盈萱)である。無理な兒化音を乱発しながら、花甲の母だと言う。なぜこんな真似をしなければならないのだろう。方言で話していては田舎者だと馬鹿にされると思ったのだろうか。挙句の果てに阿瑋の母役、林美秀に「大陸から来たお嫁さんなの?」と言われる始末。そこへ花甲の実の母(王彩樺)も現れてさらに話が複雑になり、大騒ぎに。
このシーンが印象に残るのは、台湾における「兒化音」のステータスが気になるからである。そういえば、2008年の台湾ドラマ《命中注定我愛你》の中でもヒロイン陳欣怡の母に扮した林美秀が婿となる紀存希の母を台北から薑母島へ迎えたときに使っていた。どちらも田舎の母が台北の《親家母》を迎えるときに使用しており、どうも無理にいい格好をしようとしているようなのである。
話は変わるが、
《老男孩》に出演した林依晨がインタビューで台湾風国語を克服するために気を使ったというようなことを言っていたが、
「哥們 gēmén(仲間、相棒)」の儿化音の挿入箇所がちがうと大陸のインタビュアーに指摘されていた。
つまり、大陸では「哥们儿」と言うのに対し、台湾では「哥兒們」と言っていると言う指摘なのである。その指摘を聞いて目からうろこが落ちた。本当だ! ここに大きな疑問が二つある。
① なぜ台湾では「兒」が「哥們」の間に入るようになったのだろうか。
② なぜこの語にだけ、台湾人たちが兒化音を入れるのか。
兒化音は官僚たちが話す官話に入っていた特徴で、中国語はその北京官話を標準語と定めている。最も威信の高い中国語の方言と言える。地方の人たちも《普通話》と呼ばれる標準語を話すのが理想とされ、中国では「あなたの発音はとても標準語的だ」というのが相手の話し方を誉める表現となっている。
だが、台湾ではほとんど「兒化音」が使われない。いや、台湾だけでなく、中国でも南方方言に「兒化音」はない。
それなのに、台湾でも「哥兒們」と言う。大陸から来た『外来語』なのだろうか。誰かその由来を研究して欲しいものだ。