「たんす」は台語? 《花甲男孩轉大人》第1~3話

すでに一年前になるが、台湾からの交換留学生に勧められ、ずっと気になっている《花甲男孩轉大人》(邦題:お花畑から来た少年)を遅まきながら、観始めた。

このドラマは《我可能不會愛妳》の瞿友寧(チュウ・ヨウニン)が監督であること、視聴率も放送回数を重ねるにしたがってぐいぐい上昇した点など、どうもおもしろそうであることはわかっていたのだが、なかなか続けて観ることができなかった。

一年も前に勧められていながら、なぜ…。それには、いくつか理由がある。

一つは、主人公の花甲を演じるクラウド・ルー(盧廣仲)が全く私の美的感覚を刺激しないこと。歌手だと知っていればまだしも。目にかかる巻き毛と眼鏡がとっても鬱陶しい。

もう一つは、怒涛のような台(湾)語が、中国語を聞きたくてドラマを見ている私のモチベーションを下げてしまうことである。

さらに、付け加えるなら、登場人物が多すぎて、家族関係がわかりにくいことである。誰と誰が兄弟で、誰が誰の子なのか、慣れるまでかなり時間がかかる。

しかも、第1話の冒頭にはベッドでごろごろしてばかりいる主人公二人の下半身が青虫に変わるシーンがあり、できればそれも見たくなかった。

だが、やはりこの視聴率の高さと瞿友寧監督、交換留学生のおすすめである以上、きっと最後まで観るといいことがあるにちがいない。

そして、そろそろこの家族のことがわかりだした第3話。私にも収穫が一つ。

台語の会話を聞いていると、ところどころに「オートバイ」などの日本語が出てくるのだが、今回気づいたのは中国語字幕に《衣櫃》と書かれているところで「たんす(箪笥)」という日本語が使われていたこと。おばあちゃんがタンス預金をしていたとかなんとか。

もしかすると、古い中国語が閩南語に残っているのかもしれない。台語をよく聞いていると、「期待」「世界」などまるで日本語かと思うような発音が聞こえてくることがあるからである。

そこで、日本語の「たんす(箪笥)」の語源を『語源由来辞典』で調べてみた。

室町時代の『文明本節用集』に「担子 タンス 箱也」とあり、古くは「担子」と書いた。中国で「担子」は、天秤棒の両端にかけた荷物の意味で、日本では持ち運び可能な箱を表した。江戸時代、引き出し式のたんすが作られるようになった頃から、「箪笥」の字が当てられるようになった。

「箪笥」も中国からの語で、古く中国では、円形の竹の器を「箪(たん)」、方形のものを「笥(し)」といい、合わせて「箪笥(たんし)」ともいった。中国での「箪笥」は、飯などを入れる小さな器「櫃」をいう。

以上の説明から「たんす」は古代中国語由来の語ではなく、日本統治時代に台湾に入ったいわゆる《台式日語》のようである。

「気持ち」「トラック」「とうさん」「おばさん」「運ちゃん(タクシーの運転手)」「ドライバー」といった語が台湾では普通に使われている。これらを《台式日語》と呼んでいるようだ。(『台湾に残る日本語の世界Part.2』

「たんす」も一般に膾炙している語のようで、今まで出会わなかったのが不思議なくらい。台語の会話を聞きながら中国語字幕で意味を追うのはたいへんだが、ときにはこういう面白みがあるということで、もうしばらく観てみることにする。

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