この一週間やたら「ジンリョク」ということばを聞かされた。
介護労働力不足の解決策について議論する際、韓国語母語話者の学生がジンリョク、ジンリョクと連呼しながら熱弁をふるった。
「ジンリョクの不足を補うためには、給料を上げる必要があります」
「ジンリョクの確保のために必要なのは、お金だけではありません」
もちろん彼が連呼した「ジンリョク」は「尽力」ではなく、「人力」であろう。
別の授業でも、書いてきたレポートの内容を発表させると、ある中国語母語話者が、
「(貧困家庭の子どもたちを)援助するには物資、人力、資金が必要である。」
留学生ばかりの教室内では、誰一人このことば遣いに違和感を持っていない。一人が使うとほかの人まで使い始め、「人力(ジンリョク)」で話が進んでいくのである。
日本語の「人力」には「ジンリョク」と「ジンリキ」の二つの読み方がある。
『類語例解辞典(小学館)』には次のように書かれている。
[使い方]
1〔人力〕(じんりょく)
▽人力の遠く及ばない世界
2〔人力〕(じんりき)
▽人力飛行機
▽人力車
[使い分け]
1「人力(じんりょく)」は、自然や神仏の力と対比させて、人間の能力をいう。
2「人力(じんりき)」は、機械力や動力に対して、人間の力をいう。
NHKでは「人力飛行機」はジンリョクヒコーキと読むようではある。私は小学館の類語例解辞典同様ジンリキヒコーキと読んでいた。
ただ、日本語では「ジンリョク」と読んでも「ジンリキ」と読んでも「労働力・人手・人材・人的資源」などの意味ではあまり使われない。
だが、中国語では人材バンクのことを《人力銀行》と言っている。manpowerの翻訳として《人力》が使われ、かなり広い範囲をこの《人力》がカバーしているのだろう。
こういう微妙な意味のズレは、言語接触が進むとどちらかに吸収されていくよう思う。きっとこの「ジンリョク(人力)」の意味用法は、留学生同士のスラングから、いずれ日本語母語話者にまで広がっていくのではないかと思う。
だれにでもわかって簡単だというのが、一番の強味だろう。