2018年3月28日、戦国武将好きの小6男子2名、小4女子1名を連れて近くの公民館に『丹下左膳餘話 百萬兩の壷』(1935,昭和10)を見に行った。大河内傳次郎主演、山中貞夫監督のものである。
周りを見渡すと70歳未満は私と子どもたちだけのよう。最初に公民館の人が出てきて挨拶された。大河内傳次郎の発話は聞き取りにくい部分があるとのこと。子どもたちが話についてこられないほどだったらとしばし不安に。
私自身2000年頃に京都文化博物館でこの映画を見ている。この楽しい時代劇を是非もう一度子どもたちとと思い、チラシを見てすぐ予定表に書き込み、何週間も前から楽しみにしていた。
さて、気になる日本語はと言うと…
まず、大河内傳次郎と矢場の女将役の新橋喜代三という女優の日本語アクセント。確かにときどき聞き取れない部分もあったが、ストーリーが追えなくなるほどではなかった。聞き取れないのは、発音(いわゆる滑舌)がはっきりしないというよりは、アクセントが私たちの予想と異なるからなのかもしれない。
Wikipediaには以下のような記述があった。大河内傳次郎は豊前出身らしい。
少し地元の豊前訛りのある大河内の「シェイはタンゲ、ナはシャゼン」(姓は丹下、名は左膳)という決めセリフが一世を風靡(ふうび)、後代まで多くの人々が物真似にする名文句になった。
大河内傳次郎は丹下左膳の映画を17本撮っているが、私たちが見たのは3本目だからか、上の決めゼリフは聞けなかった。『百萬兩の壷』はとりわけ喜劇性が高く、完全な善人として描かれた丹下左膳に原作者から文句が出たとの記述もある。本来の丹下左膳とは少しちがうキャラクターになっているようだ。
矢場の女将お藤役の喜代三は種子島の出身で、元芸者、歌手、女優とある。不思議なアクセントは種子島から来ているらしい。
この時代は現代より方言差がずっと顕著だっただろうと想像される。京都の撮影所に来て映画を撮る俳優たちと言っても訛りを完全に消し去ることは難しかっただろうし、訛りもその人の持ち味とされたのだろう。
次に印象深かったのが「貴様」という対称詞が親しい間柄で使われていたこと。丹下左膳が用心棒をしている矢場に出入りしている客と思いがけないところで出会うのだが、そのとき親しい友人同士の呼びかけとして「貴様」が使われていた。
「貴様」は、本来「あなた様」という尊敬の意で使われていたのが、相手をののしるときの見下げた言い方に変わって行った。1935年公開の映画の中ではまだ親しみを込めて「貴様」が使えたようだ。今聞くと「!」と気になってしまうので、きっと豊川悦司主演の『丹下左膳 百万両の壺』(2004)では「おまえ」になっていることだろう。九州あたりでは現在でも友人に使えるのかもしれないが。
さて、問題の子どもたちの映画の感想は?
小4の娘が開口一番、「なんで招き猫やダルマを向こう向きにするの?」
小6息子:「あれは歌を歌うの、もう辞めてっていう合図」
小4娘:「せっかく壺見つかったのに、なんであのまま置いとくの? 百万両探さないの?」
小6息子:「浮気できなくなるから」
小4娘:「浮気って何?」
小6息子:「それはな…」
「あんたらちゃんとわかってるやん!」と驚いた母であった。