毛沢東(もうたくとう)や鄧小平(とうしょうへい)のように中国人の名前は日本語読みするのが一般的である。習近平は「シーチンピン」と「しゅうきんぺい」が併用されるが、「しゅうきんぺい」がまだ強いように思う。
香港人の名前は、古くから日本では英語名が使われていて、中国人と香港スターの話をするとなると、面倒なことがあった。
例えば、ジャッキー・チェンJackie Chanは「成龍」が中国語名で、広東語だと「センロン」となり、北京語ではChéng Lóngとなる。
中国人はもちろん中国名で覚えているので、日本人がジャッキー・チェンについて話そうと思ってもなかなか通じなかった。今なら、スマホで写真を出して見せればすむし、検索すれば中国語名も出てくるだろうが、昔はそんなものはなく、筆談するぐらいしか方法はなかった。「毛沢東」や「鄧小平」は筆談すればすぐ問題が解決したのに対し、ジャッキー・チェンは仮に英語名をアルファベットで書いたとしても通じたりしない。
中国や台湾の俳優の名前についても現地音読みが広がるにつれ、同様の状況が起こりつつある。日本語版の映画やドラマの解説を見ても、中国語をカタカナ読みした名前が漢字を併記せずに書かれていて、だれが出ているのかわかりづらい。
チェンカイコー《Chén Kǎigē》監督は1980年代後半「陳凱歌」の漢字表記とともに「ちんがいか」と日本語読みされていたように思う。最近はカタカナでお目にかかることが多くなった。
チャンツィイー《Zhāng Zǐyí》は、映画『初恋の来た道』《我的父亲母亲》(1999)で知った。このころから中国の俳優の名を漢字で書かなくなったと記憶している。この人の名前の漢字が「章子怡」だと知ったのはずいぶん経ってからだ。
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最近この動きが大学の留学生にも広がってきていて、名簿にカタカナと英文字がピンインで表記されるが、漢字が表記されないということが起こってきた。ピンインで表記されても声調記号もついていないし、漢字が特定できない。中国の留学生の中には「俺の名前には漢字があるのに、なぜ漢字を使わない!」と怒っている人もいる。おそらくパソコンで漢字入力しても、ファイルのやり取りや変換を行うと特殊な漢字が文字化けすることがあるからだろう。(学生の中には自分の名前が文字化けするとケーキマークになると喜んで自己紹介している人もいたが。)
しかし、中国人の名前をカタカナ表記されると覚えにくい。漢字があるのとないとのでは大違いである。せっかく漢字の意味を考えて両親がつけただろうに、カタカナにされてしまうと、意味が消えてしまい、音の羅列になってしまうのである。日本語として発音される以上、声調は日本語のアクセント規則に合わせて変えられてしまう。カタカナで表記だと中国語では異なる発音であっても区別できなくなる。
留学生はテストなどに記名する際は漢字で名前を書く人もいるので、この漢字の読み方が中国語でどうなるのか知らないと、カタカナ名を見ても漢字名と同一人物か中国語の知識がないとわからない。
香港人にはさらに英語名の問題もある。香港の交換留学生に教室で何と呼べばいいか尋ねると、英語名を選択する人が多い。でも、その英語名が外国人登録証に記載されている名前と同じとは限らない。英語名は通称だったり、ニックネームだったりするからだ。外国人登録証に漢字名が書かれていると、大学の名簿に載るのは漢字名の広東語発音を英文字で書き表したものとそのカタカナ読みになる。
昨年度、アランさんと呼んでいた香港人留学生が名簿をいくら探しても載っていなくて、事務に尋ねると聞いたこともないカタカナ表記と英文字の名前を知らされた。どうやって照合せよというのか、首をひねる。
やはり名前の漢字表記はなくしてほしくない。
言葉も含めて他国の文化を日本の物差しに当てはめようとして困っている、これはわれわれ日本人の悪い習慣。中国の人名や地名をどう発音するか、または表記するか、あいうえおだけの日本語では決して正しく表現できないのはみんなが知っていることである。
そり舌音のzh,ch,sh,riはもちろん、iaoのような複合母音、「う」とは全く異なるuの音、またeの音など、数えればきりがない。
通例的なカタカナ表記と併せて、正式な書類にはアルファベットによるピンイン表記を加えるべきだろうと思う。
中国駐在歴14年の老头儿