自分の意見か、他人の意見か:テイルの不思議

留学生に限らず、昨今レポートを提出させるとコピペだらけだそうだ。「コピペ」ということばは中国語を母語とする留学生にはあまり浸透していないので、ことの重大さを理解してもらうために、「剽窃(ひょうせつ)」と大きく書くことにしている。もちろん振り仮名つきで。仮名をふらないと中国語を書いていると思われる…

剽窃だと言われないようにするには、どうすればよいのか。他人の意見と自分の意見を区別して書けばよいのである。そこで重要になってくるのが、引用の方法である。

1 歩くことは健康によいと考えられる。
2 歩くことは健康によいと考えられている。

『大学・大学院 留学生の日本語④論文作成編』アカデミック・ジャパニーズ研究会 編著(2001)「第13課 帰結 クイズ」p.59より

1は自分の意見、2は不特定多数の他人の意見…と説明すると、たいていどよめきが起こる。
テイルが付くことでなぜ他人の意見になるのか。

3 歩くことは健康によいと言われる。
4 歩くことは健康によいと言われている。

上の3,4はどちらも不特定多数の意見である。「言う」だと問題はないのだが、「思う・考える」といった思考動詞の場合は、少し事情が異なるのである。

5 私は明日雨だと思う。
6 夫は明日雨だと(☓思う 〇思っている)。

「頭の中で考えていることは自分にしか分かるはずがない」ことを日本語は常に強く意識しているのである。一人称主語だと「思う」と言えるが、三人称(この場合は夫)が主語になると「思う」が使えなくなり、「思っている」と言わなくてはならない。

7 私はロンドンへ行きたい。
8 夫はハワイに行きたがっている。

「ほしい」や「V+たい」も同じような振る舞いをする。

初級で習ったこんな文法が、いざ論文を書くときになって再び現れるとは… 思考動詞と言われるが、論文を書くには初級で習う語彙だけではすまない。「予測する」も「期待する」もこの類だ。しかも、論文には「私は」などと書くわけにはいかない。受動態を駆使して客観性を示さなければ。

気の毒な話である。

参考文献:
阿部保子(1998)「思考動詞のテイル形に関する一考察」『北海道大学留学生センター紀要』第2号 https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/45558/1/BISC002_002.pdf

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