2月の連休に家族で香港へ旅行に行った。
スターフェリー乗り場で小4の娘がトイレを探しに行って帰ってきたとき、《女洗手間》を「おんなあらてま」と頭の中で読んでいると言ったので、二人で笑った。
「トイレ」は旅行先でおそらく最も必要な語であろう。娘は娘なりに漢字を読んでトイレを見つけているのだ。立派なものだ。ただ、これがタイや韓国だとこううまくは行かない。
「あらてま」と訓読みを口に出して初めて「手洗い」が逆になっていることに気が付いた。日本語だと「手を洗う」はO目的語+V動詞の語順だから、「手洗い」となるが、中国語ではV動詞+O目的語で動詞が先だから、《洗手》となる。
それに思い至ったとき、学部時代の恩師が駅などにある「自動券売機」ということばは語順がおかしいと言っていたのを思い出した。「券売機」は「券を売る」という日本語の語順になっていて、漢語にして音読みするのなら、「売券機」にすべきだとの主張だった。なるほどと感心した。
そういわれれば「自動炊飯器」は「自動飯炊機(⇒じどうめしたきき)」とはなっていない。「飲酒」「乗車」などのように「売券」という熟語が浸透していれば、VOが逆転することもなかったのだろう。
ところで、トイレの話に戻るが、1990年代に留学したころ、中国でトイレを《厠所》と言っていた。それが、2000年代になって中国人と話すとほとんどの人が《洗手間》を使うようになっていて、どうしても《洗手間》が口からスルッと出てこない自分の中国語を呪った。「便所」「便所」と言う品のない人だと思われないかと…
香港では1990年代でも《洗手間》だったと思う。広東語ではそちらを覚えたから。韓国語では『화장실ファジャンシル(化粧室)』と覚えた。
外国語で最初に習い、すでに頭の中で自動化してしまった言葉を言い換えるのは骨が折れる。中国にいるなら慣れも早いだろうが、日本にいてたまにしか使わないのだから尚更である。
ずいぶん前のことになるが、日系ブラジル人歌手のカルロス ・トシキが東京へ来て初めて「これいくら?」と言うのを覚えたと言っていた。国では「なんぼ?」と訊くのだと習ったという。ブラジルにはきっと古き良き日本語が残っているにちがいない。