2011年3月4日東京を訪問したときのことである。
東京の友人たちと子連れで会い、喫茶店でお茶を飲んでいた。東京の友人Aの息子(当時3歳)が子ども用のとても小さい黄色や緑のカラフルなナイロン製ボストンバッグを落としたのを見て、関東育ちの友人B(女性)が「あ、バッグ落ちたよ」と言った。
関西育ちの私にはそのことばがかなりの衝撃だった。「バッグ? 私はあれをバッグとは言わないなあ。カバンて言う」関東の友人たち:「え? あれはカバンじゃないよ。バッグでしょ」
子どもの持ちものを「バッグ」などというのはこじゃれすぎている!カバンだ!と私は力説した。関東の友人たちはカバンというのはおじさんが持つ、書類などを入れる、四角くて硬い感じのものだ、柔らかい生地のボストン型のものはバッグとしか言いようがないというのである。
私の感覚ではカバンは形の制約を受けない。荷物を持ち歩くための入れ物全般を総称するものだ。バッグこそファッション誌で洋服とコーディネートするときぐらいしか使わない。あるいは「ボストン-」「ハンド-」「スポーツ-」などほかの外来語に続く要素である。
非常に不思議な感じがしたので、いろいろと関西や関東の人に尋ねてみたところ、関西でも私と同じ感覚を持っている人ばかりとは限らないようであった。世代の問題なのかもしれない。
ちなみに、手元の電子辞書では、
『デジタル大辞泉』小学館
かばん【×鞄】
1⃣革やズックなどで作り、書類その他のものを入れる携帯用具。
◆中国語「夾板(キャバン)」の転とも、オランダ語のkabasから出た語ともいわれる。
中国では、「鞄」の字はなめし皮、また、それを作る職人のこと。
2⃣(かばんに金を入れることから)選挙に必要な資金の俗称。
◆「地盤」「看板」と合わせて「三ばん」という。
『明鏡国語辞典 2002-2009』大修館書店
かばん【鞄】
(名)書類などのものを入れて持ち運ぶための用具。革やズックなどの布で作る。
『プログレッシブ和英中辞典 第3版 2002年』小学館
かばん【鞄】
a bag;
〔折りかばん〕a portfolio;
〔書類入れ〕a briefcase;
〔肩ひものついた学生用の〕a satchel;
〔背負いかばん〕a backpack, a knapsack;
〔婦人用の〕a handbag
▷「鞄」は本来なめし革の意。
『大辞泉』と『明鏡』の「革やズックなどで作る書類などを持ち運ぶためのもの」という定義で行くと、確かに今回問題にした子ども用のビニール製のボストンバッグ状のものはカバンの範疇に入りにくそうである。
だが、「荷物を持ち歩くための入れ物」全般の総称としての働きが「カバン」ということばにないのかというと、そうとも言えない。『プログレッシブ和英中辞典』にさまざまな種類のものが書かれているからである。
『みんなの日本語初級Ⅰ』第8課に出てくる「かばん」にはいろいろな形のものが描かれていたような…。
これと似た例としてしばしば挙げられるのが、関東の「デパート」関西の「百貨店」。関東の「マック」関西の「マクド」ほどではないにせよ、隠れた方言なのかもしれない。
バッグとかデパートとか気取りすぎてて、やっぱり私はよう言わんわ。